『2945(仮)第一章〜第七艦隊〜第一話』
スタッグスの統括本部部長であり、11軍全軍を統括するジェームズ・D・マッカス大将は苛立ちを隠せないでいた。
なぜ、「ムーン」との遭遇についてウルティマからの警告がなかったのか、無数に放っていた無人偵察機部隊は
なにをやっていたのか。
ナンバーツーである、ハリー・A・スラッグ中将とナンバースリーであるドワイト・B・ロナック少将、それと
人工知能ウルティマを含めた4つの頭脳は今回の対応と今後の戦線について月にあるスタッグス本部でミーティング
を開いていた。
ムーンと全面戦争になった場合の勝率につき、ウルティマが算出した勝率は0.153、すなわち15パーセントであった。
もし、敗れればムーンにとっては人類はただの家畜としてのみ、銀河系に居住を許されることになる。
ただ、ウルティマの算出した計算はファーストコンタクト時のムーンの群れからの情報を基に計算されたものであり
確定した数字ではなかった。
また、これまで人類以外との戦闘を想定していなかったスタッグス軍技術部では対ムーン用の試作機も日々考案されており
絶望的といえるほどの状況ではなかった。
しかし、5万人の移民船団と数百機の爆撃機の損失はスタッグス設立以来最も大きな損失であり、マッカス大将に対し
責任を求める声が軍内部からも上がり始めていた。
「現状第七艦隊でどの程度持ちこたえられるのか」ロナック少将がウルティマに尋ねた。
「第七艦隊がその能力を1.000出せた時に120.354日間です」
「それでは付近に駐留する第五・第六艦隊の増援まで間に合わないではないか」マッカス大将は激高した。
「無理な増援は被害を大きくするだけです」スラッグ中将が冷静に答えた。
「第七艦隊の一千万の将兵を見殺しにできるか!!」さらにマッカス大将は大きな声を出した。
その声を聞くとその場にいた者は黙るしかなかった。
第七艦隊司令部はさらに緊迫していた。
第七艦隊を率いるディック・マラーキー少将は戦局ホログラフを見ながら思案に暮れていた。
「閣下、少しは休んでください」参謀長のドナルド・ウィーンが気遣う。
「そうも言ってられないだろう、sr-50を213機も失うとは・・・」
「ですが、今回の戦いは言ってみれば不意打ちを受けたようなものです、やむを得ないかと」
「俺には1000万の将兵と15億の人を守る義務がある、評論家にはなれんさ」
「たしかにそうですが・・・」
「特殊機動戦術部隊のスター・ハリケーンと機動戦術部隊のピース・デルタを呼んできてくれないか?」
「はっ、かしこまりました」
第七艦隊指令部は銀河系の太陽系から最も遠い惑星をテラフォーミングし、本拠地を置いていた。
第七艦隊の下には10の基本大隊があり、1大隊につき100万の将兵と5000隻の艦艇2000機の戦闘機・爆撃機・偵察機が配属されていた。
今回応戦したのは、第七艦隊のうちの第二大隊である。
ただ、最精鋭部隊は司令部直属の特殊機動戦術部隊と特別強襲班であった。
30分ほどかけてハリケーン大佐が、さらに15分後デルタ大佐が司令部に到着した。