『2945(仮)〜プロローグ〜』

 西暦2950年
 地球人類は銀河系に進出し、そのほとんどを支配下に置いていた。
 我々の銀河系の惑星の中には生命は存在したが、知的生物と呼びうるものは存在しなかった。
 人類が太陽系を離れて銀河系に進出できた大きな要因は人工知能の発達である。
 20世紀末に開発されたそれは科学技術・医療・政治・経済あらゆる分野について人類の発展に寄与した。
 特に2400年に開発されたウルティマは初めて自我を持つ人工知能と言われながらも「人類の幸せ」という初めに植え付けられた
プログラムに従順で他の人工知能の反乱の制圧や人口爆発による食糧難・貧富の差による暴動などを的確に処理した。
 地球連邦政府は後にウルティマによる政府とまで言われ、人類史上初めて地球規模の政府ができた。
 その後、ウルティマは自己更新をし続け、2950年現在でも最も処理速度が速く、信頼性の高い人工知能として人類の繁栄を支えている。
 また、2550年代から始まる太陽系外への進出、いわゆる第二の大航海時代が始まるが、直径10万光年の銀河へ進出するため、
一度我々の宇宙の外に出てから、任意のポイントへ着地するというマルチバース航法の確立にもウルティマは大きく貢献している。
 2770年、銀河系の八割を支配化においた人類は地球連邦政府を発展的に解消し、銀河連邦政府「スタッグス」を樹立する。
 それから200年が経過しようとした2955年銀河系からさらに外宇宙に進出しようとする人類は全く異なる進化を遂げた生命体と
接触することになる。
 いわゆるファーストコンタクトである。
 その種族は人類を栄養価の高い食料としか考えておらずあらゆる交渉・説得は無為に終わった。
 無人先行偵察機を含む五万人の移住船団は全て壊滅・捕食された。
 ここに、スタッグスは宣戦布告をし、ウルティマもそれに同意した。
 銀河系全体が戦時体制に移行する。
 ファーストコンタクトした種族については、正式には023178型生命体と名付けられたが、マスコミを含め、そう呼ぶ者はいない。
 一つの個体の大きさが月と同程度であることから、「ムーン」と呼ばれていた。
 ムーンは全宇宙の七割を支配し、その大きさからは想像できない機動力と無数の触手で他の生命体を粉砕し、捕食した。
 光学的に観察すると衛星や惑星に見えるため、それまで知的生命体と想定できず初戦において後れをとった。
 人類側の主力汎用戦闘機は2945年にプロトタイプが初飛行した45式とよばれる戦闘機である。
 45式は光速の85パーセントの推力を誇り、強力なレーザー砲を標準装備し、対消滅弾頭を一個積載することも可能であった。
 爆撃機としてはほぼ同時代に作成されたステルス爆撃機sr-50が優秀であり、機動力に劣るものの、対消滅弾頭五個を搭載できた。
 対ムーンに対しては対消滅弾頭を直撃させられれば一体を殲滅できた。
 スタッグスにおける軍の編成は太陽系を守る第一艦隊をはじめとして、銀河を10分割し、それぞれ第二〜第十一艦隊が配備されてい
たが、今回接触したのは第七艦隊であり、当面は第七艦隊がムーン殲滅にあたることになった。
 それまで、地球人類以外との戦闘を経験したことのない第七艦隊は戦術が確立せず、特に足の遅いsr-50においてはムーンの触手に
捕らわれ、200機近くが撃墜されることになった。
 それでも、10体のムーンを殲滅することに成功し、一時的な休戦状態がもたらされた。


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