『散る桜、咲く桜』

優也(ゆうや):男
香苗(かなえ):女
俊昭(としあき):男

俊昭:今でも思い出す。そう、2年前の春。俺達は桜の樹の下で誓いを立てた。いつまでも、ずっと友達でいようと…。

聖咲学園
2年B組
香苗:優也ー!俊昭ー!こっちこっち!
俊昭:なんだよ〜、朝から急かすなっつの。
優也:いいじゃないか。香苗があんなにはしゃぐの久しぶりだろ?子供の頃を思い出すなぁ。よく公園で走り回ったっけ。
俊昭:そうそう、いっつも香苗が転んでベソかいてたな〜。
香苗:もぅ、何してるのよ〜!早く〜!
俊昭:わぁったわぁった!今行くから!
優也:急ごう。
香苗:見て見て!花壇のお花!すっごく綺麗!
俊昭:見せたかったのって…これか?
香苗:そうだよ!すごく綺麗だと思わない?…見惚れちゃうなぁ。
優也:綺麗な花だね。ホントに。これ、香苗が全部?
香苗:うんっ!種から地道に育てたんだよ〜♪もぅ、可愛くて可愛くて。
俊昭:なんだよ花か。俺みたいな奴には絶対似合わない趣味だな。
香苗:なんだよとは何よ〜、大変だったんだからね!あんたには素直に綺麗だなんて思う心はないわよね、あ・ん・たには。
俊昭:おまっ!
優也:あっははは!俊昭、すっかり嫌われてるぞ?
俊昭:う、うるせえよ。俺は別に花なんか興味ねぇし。
香苗:おやおや〜?顔が赤いですよ〜?さては私の美貌に見惚れたかしら。
俊昭:バカかお前は!
優也:図星か?図星だろ俊昭。
俊昭:うるさいうるさい!帰る!
優也:まぁまぁ、せっかく来たんだし3人で街にでも出掛けようよ。
俊昭:俺財布家だぞ?呼ばれて来ただけだからよ。
優也:いいよ、僕が出すから。
香苗:おっ、太っ腹!
俊昭:お前大丈夫か?香苗の手前ああは言ったけどよ。
優也:心配ないさ。昨日バイト代出たばかりだし。使い道もないから3人で遊ぼ?
俊昭:すまん!貸し一つな。埋め合わせするからよ。
優也:気にしなくていいよ。ほら、一万円。お前の株も上がるだろ?持っておきな。
俊昭:優也…。

優也:香苗、すぐ行けるか?
香苗:私は大丈夫だよ。一応財布もあるし。自分の分ぐらい出せるから。
優也:今日は僕から誘ったんだ、財布はしまっておきな。来月またバイト頑張るからさ。
香苗:さーんきゅ。どこ行くー?駅前とかは?
俊昭:いいね!確か新しく喫茶店出来たんじゃなかったっけ?
優也:話は聞いてるよ。混んでるとは思うけど、試しに行ってみようか。
香苗:やったぁー!
俊昭:よし、なら早速駅前にレッツゴー!だ。
優也:レッツゴー!
香苗:レッツゴー♪
俊昭M:これがいけなかった。まさかあんな事になるなんて…。

駅前
香苗:やっぱり駅前はすごい人混みだね〜。
優也:仕方ないさ。今日、日曜だし。
俊昭:立ってるだけでも疲れるな。
優也:えっと、お店は信号の先だね。時間遅くなるといけないから急ごう。
俊昭:ちょっと待て!信号点滅してるぞ!戻れ!
優也:えっ…。
俊昭M:物凄い音と共に優也は車に跳ねられた。ひき逃げだ。
香苗:優也!!
俊昭:おい!逃げるな!…優也?おい優也…?香苗、優也息してない。

香苗:優也!?ねぇ返事をして!優也ぁ!
俊昭:き、救急車!誰か救急車を呼んで下さい!お願いします!息してないんです!お願いします!
香苗:優也ぁ!
俊昭M:誰も救急車を呼んではくれなかった。ただ。ただ見ていただけだ。
俊昭:携帯!どこだっけ…あった!えっと、110番。あ、いや119番。もしもし、ひき逃げです!友人が跳ねられて!いえ違います!駅前にすぐ来て下さい、息してないんです!!
香苗:どうだった?
俊昭:来てくれるって。どうしよう…。
香苗:人工呼吸!やり方、分かる?
俊昭:分からないよ…香苗は?
香苗:お父さんがレスキュー隊だから教えてもらったことある。出来るかな…。
俊昭:香苗頼む!このままじゃ優也が死んじまう!
香苗:わ、分かった。まず気道確保。顎を上げて…
俊昭M:香苗の応急処置のおかげで優也は助かった。…助かった。

宗馬病院
香苗:戻らないね、意識。
俊昭:まだ分からねぇよ。優也の事だ、きっと回復も早いさ。
香苗:どうしてこんな事に…うっ…えぐっ…。
俊昭:泣くな!優也が起きたらビックリするだろ!
香苗:うっ…ご、ごめん。
俊昭:頼む優也。俺達3人で一つだろ?お前がいなくなったらどうするんだよ。優也、頼む。

俊昭M:優也は意識を取り戻す事なく、その若い生涯に幕を降ろした。享年16歳。

聖咲学園 裏庭
優也:授業に遅れるぞ?話って何?
俊昭:お前、香苗の事どう思う?
優也:どうって。幼馴染で親友で。
俊昭:他には?
優也:他?
俊昭:俺、香苗の事が好きだ。
優也:僕もだよ。
俊昭:えっ?
優也:当たり前じゃないか。小さい頃からお前と3人で…。
俊昭:違う!
優也:俊昭?
俊昭:その…女として…好きなんだ。
優也:あぁ…。
俊昭:驚かないのか?
優也:うん。
俊昭:どうして?
優也:僕もだから。
俊昭:えっ…?
優也:僕も付き合いたいって思ってる。
俊昭:俺達親友だよな?

優也:そうだよ。
俊昭:だけどな、同じ女を好きなら話は別だ。お前は恋敵ってこと。
優也:あっははは…。
俊昭:何がおかしい!
優也:ムキになりすぎだよ。
俊昭:はぁ?
優也:大体さ、香苗の気持ち聞いてないじゃん。
俊昭:そりゃ、そうだけどよ。
優也:それに僕は香苗を幸せには出来ないよ。俊昭の方が彼女もきっと。
俊昭:お前…。
優也:大丈夫。俊昭なら香苗の事きっと幸せにしてあげられるから。僕のことはいいから告白してみな?
俊昭:お、おぅ…なんか悪りぃな。
優也:それじゃあ僕は教室に戻るね。
俊昭:あぁ。

2年B組 教室
香苗:遅かったわね。俊昭は?
優也:ちょっと野暮用だってさ。そのうち来ると思うよ。
香苗:そっかぁ。あ、ねぇねぇ。放課後話があるんだけど。いいかな?
優也:なんだよ改まって。構わないよ。
香苗:…ごめんね。
優也:?

放課後
香苗:ふぅ…今日も疲れた〜。優也、いい?
優也:話って?
香苗:ここじゃちょっと…。
優也:なら外に出よう。人、いない方がいいだろ?
香苗:あ、うん…。

裏庭
香苗:あのさ、えっとね。
優也:どうしたの?ヤバい話か?
香苗:違っ!えっと…私ね、優也の事…好きなの。
優也:えっ?
香苗:ごめん!急にびっくりするよね…。
優也:いや、好きってどっちの?
香苗:あの…異性として。
優也:なるほど。そういう事か。
香苗:なに?どういう…?
優也:俺達は幼馴染。3人で一つ。そこで香苗は俺に好きって言ったら俊昭を蔑ろにしてしまう。だから今まで黙ってた。違う?
香苗:う、うん…。
優也:なら答えさせてもらうよ。俺も香苗が好きだ。女の子として。
香苗:ホント!?
優也:ただ俊昭の手前付き合う事は出来ない。分かるでしょ?
香苗:うん…。
優也:ありがとね。とても嬉しいよ。でも俊昭にはこの事、黙っておくから。
香苗:分かった…。じゃあさ。
優也:ん?
香苗:ちょっと来て。
優也:どうし…
香苗:チュ…。
優也:!?
香苗:はぁ、すっきりした。モヤモヤしてたから。
優也:香苗…。
香苗:付き合ってくれてありがとね!また明日!
優也:あぁ、また…。

宗馬病院
俊昭:あいつ。ちゃんと逝けたかな。
香苗:うん…。
俊昭:犯人、捕まったんだよな。
香苗:うん…。
俊昭:親御さん、見てられなかったな。こんなのってさ。
香苗:もうやめて。
俊昭:えっ?
香苗:もう…やめて。
俊昭:ごめん…。
香苗:私、帰るね。
俊昭:あのさ。
香苗:何?
俊昭:桜の樹…行かないか?
香苗:桜…?
俊昭:あいつ、好きだったじゃないか。俺達の場所。約束の場所。
香苗:いつまでも…。
俊昭:友達でいようと。

END

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